新しい学術集会の形を目指して ~学会の挑戦~ 第二回 日本植物学会編

第二回 (公社)日本植物学会編

 生物科学学会連合代表の小林武彦先生から、標題に関するリレーエッセイのバトンを渡されました、(公社)日本植物学会の三村です。
 この春は、新型コロナ感染症の蔓延で、多くの学会が年大会の中止に追い込まれました。その状況を伺いつつ、3月下旬には、9月開催予定の植物学会名古屋大会(2020年9月19日(土)~ 9月21日(月/祝))は、どのようになるだろうと考えていました。それまでには状況も落ち着いて、いつもの開催が出来ると良いなという期待が8割ぐらいと、もしかしたらこの大会も中止にせざるを得ないのだろうかという不安が2割ぐらいだったように思います。大会が開催できるなら、この春に学会が中止になった関連分野の研究発表を、植物学会員ではない方でも、会員と同等の待遇で受け入れられないかと大会委員会に打診を始めたりしていました。しかし、会長としては愚かなことでしたが、開催は9月だったとしても、そのための発表参加〆切は、例年5月には行われていて、それまでには結論を出さなければならないのだということに気がつき、さてどうしたものかと周りの方々と話をしていた、まさにその時(メールを見ると3月30日になっています)に、今年の名古屋大会の大会長である、長谷部光泰博士(基礎生物学研究所)から、今年は、全面的にオンライン大会にする検討を始めるという連絡をもらいました。
 私自身、この春の出来事から、大会を中止にするということの多方面への厳しい影響を痛感していたので、すぐに、その話を進めてもらうようにお願いし、実行委員長の東山哲也博士(名古屋大学/東京大学)、芦苅基行博士(名古屋大学)、上田貴志博士(基礎生物学研究所)が中心となって、初めての全面オンライン大会の計画が始まりました。現在、参加登録段階からオンライン大会を計画されている多くの学会の中では、最も早かった方ではないかと思います。
 今回の大会では、当初の通常大会の計画時から、長谷部大会長の発案で、中心メンバーにより、「楽しく」、「容易(たやす)く」、「ためになる」の3Tをスローガンとして運営することが提唱されましたが、大会長からは、さらに以下の方向性が示されています。

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オンライン大会への挑戦も、想定外の展開に心躍らせ、新境地を夢見る研究者として、3Tの精神を堅持します。
「楽しく」:やっぱ、発見したときの、あの、「見て見て!」、「聞いて聞いて!」のワクワクでしょう。
「容易く」:少子高齢化のもと、大会運営の省力化と全世代型学会は必須です。
「ためになる」:役に立とうが立つまいが、自分やだれかの為になることは共通の価値観でしょうか。
オンライン開催にあたりましても、3Tの原則に基づき、以下の新しい試みを行いたいと思います。
(1)オンライン開催でも多くの会員に参加してもらうため、参加費を値下げしました。
(2)感染防止のため、参加費支払いに従来の郵便振替に加えて、ネットバンキングを導入しました。
(3)口頭発表、シンポジウム、ランチョンセミナー、授賞式・受賞講演・植物学会会員の集い、公開講座はZoomのウェビナーで開催します。 (4)ポスター発表、高校生企画は、機器書籍展示は、LINC Bizで開催します。
(5)ミキサー、シニアの集い、懇親会は、それぞれの時間帯での自発的なオンライン飲み会形式で進めます。
(6)大会の準備や当日のアナウンスは、参加登録で入力されたメールアドレスや、ビジネスチャットを通じて行います。
(7)全世代に開かれた大会とするため、発表しないシニアの会員、高校生発表の高校生、引率教員の大会参加費を無料にします。
(8)知識の公平な共有を目指し、大型研究費協賛シンポジウムの数を増やします。
(9)二酸化炭素削減のため、要旨集のpdfダウンロード一本化を行います。
(10)植物学の楽しさを具現するため、ジェンダーバランスに配慮し、若手による高校生を主対象としたZoomのウェビナーでの公開講座を行います。
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 現在運営の全体像は、大会ホームページ(http://bsj.or.jp/bsj84/index.html)を参照していただくことで、口頭発表方法やポスター発表方法の詳細をご確認いただくことが出来ます。
 今回のオンライン大会の利点を生かして、大会委員会では、非会員の学部学生や高校生への無料参加も呼び掛けています。可能な限り多くの皆さんが、基礎植物科学に触れ合える場をつくりたいということです。また、新しい様式の大会ということで、次代を担う若手実行委員たちが大会運営に興味を持ち、主体的に活動し、ポジティブフィードバック状態になっている点もはじめてのオンライン大会の特徴の一つです。
 当初は、会員の方々もどのようにして良いか不安だったのでしょうか、発表参加の申し込みは低調でした。特に、多くの学生・院生、ポスドクの方々など、研究の第一線にいる方たちにとっては、大学・研究機関において、研究の場へのアプローチが制限されたため、発表するデータそのものがないことが、発表参加を躊躇させたかもしれません。
 その中で、長谷部大会長から再度会員全員に
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この春は研究活動にも大きな支障が生じ、実験もままならず、大会への参加を躊躇されていらっしゃる会員の皆様も多いことかと存じます。大会の本来の役割は、成果発表だけではなく、研究計画について専門家や異分野の研究者から意見を聞く機会でもあります。また、昔の研究結果の新たな発展を期待して、未解決の問題をリマインドする場でもあるかと存じます。(中略)是非、ご参加・ご発表頂き、植物学大会で盛り上がりましょう!
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という呼び掛けが行われ、最終的に例年以上の口頭発表数を含む、合計500を大きく超える演題登録が行われました。

 もちろん、このような学会開催は初めての試みですから、不測の自体も十分に起こりうるでしょう。特に、今回は会員ではない多くの方々にも門戸を開く予定ですから、発表内容の守秘義務を、専門家とは言えない学部生や高校生を含む参加者にどのように理解してもらうかなども、様々な工夫がされているところです。
 ただ、せっかくの機会を逃さず、オンライン大会の利点を最大限に活かして植物学会大会を開催することで、私自身もこれまでとは異なる新しい世界が広がるようにも感じています。
 来年度以降、この新型コロナによる感染状況が無事落ち着いて、通常の集会が開催出来るようになったとしても、様々な理由から、会場に行って発表できない会員の方たちのために、また植物科学とはどんな学問なのだろうと知りたい若い方たちなどのために、大会の全てではないとしても、一部をオンラインで公開、参加、発表できるようになれば、学問の発展に大きな意味を持つのではないかと思われます。
 是非、皆さま方も日本植物学会第84回名古屋(全面オンライン)大会ホームページを覗いて頂き、ご興味をお持ち頂ければ参加してみて下さい。学部学生さん以外は、非会員としての参加費は必要ですが、ネットがつながる限り、地球上に限らずどこからでも(宇宙ステーションからでも(おそらく))参加可能です。

 令和2年6月28日
 (公社)日本植物学会・会長
  三村 徹郎

筆者:三村徹郎
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